2012年5月21日月曜日

ポルガー二号


 ポルガー姉妹は、三人とも超優秀なチェスプレイヤーになったことで有名だ。
三女のJuditに至っては、女性唯一のレーティング2700超えという怪物級の記録を残している。なぜ彼女らが成功したかといえば、ポルガー親父に英才教育を施されたからだ。



ポルガー姉妹。左から、Susan, Sofia, Judit

ポルガー父・母


 彼は、「天才はつくられる」という持論の熱烈な信奉者だった。その熱狂ぶりとしては、子供を授かる前から「天才を育てよう!」なんていう本を出版しているほどだ。

 そんな彼としては、自らの理論を机上の空論で終わらせたくはない。自分の説を検証したい。彼は、彼の「実験」に付き合ってくれる女性を探した。そして、見つかった妻との間にできたのがポルガー姉妹だ。

 結局、ポルガー親父の実験は大成功に終わったのだが、失敗したら悲惨だっただろう。チェスだけで食っていくなんてことはスーパーエリートになるか、優秀なトレーナーにでもならない限り無理だ。しかもその実現可能性は低い。
 Juditは5歳ぐらいで既に強かったということだから、おそらく1歳とか2歳ぐらいから教育をはじめていたのだろう。しかし、そんなチェス漬けにされたら情操教育上よくなさそうだ。(ポルガー親父のことだから、胎内教育でa1は黒!とかVisualizationの教育などしてそうで怖い。)

 周りが普通のこどもの遊びをしている中、親父との暑苦しいエンドレス・チェス・レッスンなぞよく耐えられたものだと思う。


「わたし、チェスなんてもうやだ・・・」
「ポジション13! これはシシリアン・ナイドルフで・・・」
「チェスなんていやだ!!!」
「お前はGMになりたくないのか!! お父さんはもう教えないぞ!」
「(泣きながら)なりたい・・・ 教えてください!」
「じゃあ、ポジション13!!! これはシシリアン・ナイドルフで・・・」


 なんて汗臭い日常の一コマもあったのだろうか。それとも、案外ポルガー親父は自ら自負するように教育方法に関しては卓越で、三姉妹とも純粋にチェスが好きになれたのかもしれない。

 ウクライナなど旧ソ連国には、ポルガー二号となろうと失敗した親子の話が埋もれていると推測する。英才教育の成功・失敗、多くの分野でよくある話ではある。そして、旧ソ連国の場合、チェスの英才教育も盛んだから、失敗に終わったポルガー二号・三号の哀しいストーリーもたくさんあるのだろう。


たかがチェスされどチェス。チェスに人生をかける人も世界には多くいる。








アレクセイ・スルタノフ。
才能に恵まれていたピアニストであったが、彼も親の重圧に苦しんだピアニストでもある。

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