2012年5月9日水曜日

パターン認識

チェスでは、パターン認識が重要だと言われる。実際、Adriaan De Grootの実験にはじまり、マスターとアマチュアの間の最大の差の一つとしてパターン(チャンク、チャンキングなどとも呼ばれる)のストック量の違いが指摘されることが多いようだ。 実験の示すところによれば、マスターは深い手を読んでベストムーブを選ぶというよりも、より多くの手を検討し、それほど深い手まで読まずに手を選択するらしい。なぜ、それが可能かということを説明する理由として、パターン認識能力が挙げられた。

パターン認識というのは、チェスに限った特別なものではない。およそ習熟を必要とする分野においては、共通の学習過程だと思う。パターン認識の肝は、思考の省略可にあると思う。中学高校で習う因数分解なんて、まさにただのパターン認識だろう。 大学受験の分野で和田秀樹という人がいる。和田秀樹は、数学の学習方法としてチャート式という数学の問題集を「覚える」ことを推奨する。和田秀樹曰く、難しい問題であっても、チャート式にあるような問題に分解して考えれば、解くことができる。 和田秀樹の主張の骨子は、そういった問題のパターンを自分の中にストックすることで、類似の問題が出てきたときに、そのストックをツールとして問題を解くということにある。

私は数学はどちらかといえば好きだったので、最初はうさんくさいと思っていたが、実際やってみるとそれなりに効果はあった。 数学というと考えることが重要で、暗記なんてものとはほと遠いように思える。しかし、数学オリンピックの問題を解くならいざしらず、ふつうの大学受験程度の問題では、創造性が試させる問題はほぼない。結果、数学が苦手というのでなければ、たいていの問題はチャート式レベルの知識でも大体解けてしまう。

チェスも同じなのだと思う。例えば、エンドゲームなどその典型ではないか。詳しくは知らないが、エンドゲームにおいても、いくつかの覚えなければならない必須のパターンというものが存在する。初めてそれらの問題を見るときは、考えて解かなければならない。しかし、一度考え方を覚えてしまうと、それらはパターンとしてストックされる。したがって、同じ状況の局面が現れたときには、思考を省略してほぼ自動で解くことができる。 何かの記事で読んだが、女性GMのアレクサンドラ・コステニュークも、100 Endgames You Must Knowをフラッシュカードにして全て一瞬で解けるようにまでしたらしい。 まるで大学受験だ(和田秀樹も、カードにして覚えるという方法を推奨していた)。

こういったパターン認識は、タクティクスやエンドゲームでは強調されるが、ストラテジーの分野ではあまり聞かないように思える。しかし、ストラテジーでも同じだと思う。それの完全体のようなものとして、ポルガー姉妹の父親のLaszlo PolgarのMiddlegamesという本がある。この本は、ストラテジーだけではなく、タクティクスも含まれているようだが、なんと4000個以上のポジションが掲載されているようだ。 確か、Studying Chess Made Easyか何かに書かれていたが、ポルガー父はいつも興味深いポジションがあると思ったらそれらを保存し、娘たちに解かせていたらしい。この本はその副産物なのかもしれない。

パターン認識はその量が増えれば増えるほど、最終的には直感に結びつくのだと思う。 例えば、5000ポジションにおいて、どのポジションにおいても即座にベストムーブが選べることができるとしたら、それが実戦においてどれだけの効果をもつかは明らかだろう。

したがって、結局チェスの学習においても、パターンの数を増やそうと努力することが一番合理的な方法なのではないかと思う。 惰性で勉強すると、問題→理解という段階で学習を終えてしまう。結果、わかったつもりになってすぐに忘れる。 しかし、問題→理解→記憶を意識的に行えば、より効果があるのではないかと思う。
単なる「理解」というのは何の役にも立たない。それをほぼ自動的にできるレベルに達しなければ、自らの血肉となる知識にはならない(もちろん、逆に、理解なくして暗記することも意味がない)。野球で変化球の投げ方を理解したとしても、それを考えなくともできるようにならなければ使い物にならないのと同じだろう。

ただ、ここまでいくとチェスというより勉強になってしまう。そこまで必死にチェスをやる価値はあるのかどうかはわからない、いや、多分ないだろう。  しかし、どうせやるなら、時間が限られていても、ダラダラと惰性でやりたくはない(という願望)。

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